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ボカロとか東方とかWJとかが好きなかんりにんの、夢とか日々とか妄想とかが詰まった小さな部屋。

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こちらに上げるのは遅くなりましたが、ネギトロ祭り第二弾です。

今となってはなぜだか思い出せないのですが、殴りあってる青春物が書きたくなって半日で書き上げました。
でも暴力ダメ、絶対。ね(笑)


 鈍い音と痛みとともに、口の中に鉄の味が広がる。殴られた衝撃で口内を切ったのだろう。女子の顔面を殴るとはなかなかのやり手だ。やられたらやり返す主義の私は、全身に走る痛みを無視して彼女に殴り掛かった。痛快なほどいい音が鳴って、彼女が地面に倒れ込む。私を睨みながら、私が殴ったところを手で押さえてうめく。今だけは、視界に流れる自分の髪がうっとうしかった。

「…った」
「はは、かわいいからってなめてもらっちゃあ困るなぁ」
「どの辺が…かわいいのかしらねっ!」

 即座に立ち上がった彼女が私の腹部に鋭い蹴りを入れる。痛みと彼女を這いつくばらせた優越で反応しきれなかった私はそれをモロに受け、たまらずそこを抱えて地面にうずくまった。胃の内容物がひしめき合う感覚に吐き気を覚える。しかし乱暴に私の髪を引っ張った彼女のせいで、一瞬の内に私の視野はコンクリから憎らしい彼女の顔へと移る。やっぱり髪、切ろうかな。

「あらあら、随分と酷い顔ね。ぼっこぼこよ」
「………っ」

 性格の悪い笑みに悪口も叩けない。せりあがってくる気持ちの悪い感覚に耐えるのが精一杯だった。そんな私を知らずして、彼女は「もう終わり?」なんて聞いてくる。力任せに引っ張られる前髪が痛い。その一言さえ言えないまま、私はただ彼女を睨みつけるしかできなかった。

「ああ怖い。威勢だけはいいのね、あなた」
「よ、く、しゃべるね…」

 少しずつ腹部の痛みも引いてきた。言葉で反撃するぐらいの余裕も帰ってきた。これは、いける。そう思った私は、髪を逆立てるその手を右手で思いっきりつかんで引っ張った。膝を抱えて、だけど地面に腰を下ろしていなかった彼女は、それだけでバランスを崩してよろめく。間髪入れずに左の拳を固めて、お返しとばかりに彼女の腹部、鳩尾に狙いを絞った。


 なんでこんなことになったんだろう。最初はただ、きれいな人だなって思っただけなのに。顔の細部や細い体のラインよりも先に、風になびく桜の色をしたその髪に目が引かれた。初めて彼女を見たのは去年の冬のことで、まだ寒さは残るけど暦の上で今は春だ。この季節に似合う、きれいな髪だなって思っただけだ。当時はまだ、彼女がまさかこんなに喧嘩の強い人だとは思わなかったからかな。こんな現実が信じられないのは。
 それにしてもなんで私は、学校の校門前で堂々と、名前も知らないこの人と、こんな傷だらけになるまで殴りあってるんだろう…?事の発端がよく思い出せない。頭にも何発かいいのもらってるからかな。

 ………殴りたく、ないなぁ…。


「……?」

 気づけば桜の彼女が不思議そうにこちらを見ていた。いつのまにかチャンスタイムは終わっていて、私は拳を振り抜けなかったんだと知る。私は左手の緊張を解いて、彼女の深い青色の瞳を見つめたままその場に立ち尽くした。地面に倒れていた彼女は拍子抜けしたとでも言うように立ち上がり、服についた土埃を手で軽く払った。

「なによ、いきなりしらけちゃって」
「…思い出せないから聞くけど」

 唇を尖らせた彼女に切り出す。下を向けば、重力に引っ張られた私の髪が両端に見える。水のような青空のような色をした、私の髪。

「なんで、こんなことになったんだっけ…?」
「…それ、聞くの?」
「え、だって、私あんたの名前だって知らないのに…」

 急に小さくなった私の態度に驚いたのだろう。殴る蹴るの応酬が続いてた間には聞かなかったとても低い声で彼女は問い返した。それに私が答えると、彼女はわざとらしくため息を吐きながら再び地面に腰を下ろした。倣って私も座る。久しぶりにこんなに殴りあったから、正直言って足はもう限界だ。それはきっと彼女も同じで、見るとその足は震えていた。

「はぁ…」

 観念したようにもう一度深く息を吐いて、彼女は空を仰いだ。

「……あなたの色、ね」
「…?」

 この傷の量じゃあ、またお風呂が憂鬱になるなぁ。なんて考えてたら、彼女が不意に口を開いた。

「つまらないものよ、今さっきまでの喧嘩の理由は。覚えておくのも無意味なほどにね」

 そして私は、彼女の言った通りどうでもいい理由で殴り合いが始まったことを聞かされて思い出す。要約すると、最初に私を見つけた彼女が話しかけてきて、私の髪をほめて、私も褒め返して、お互い照れ隠しのちょっとした悪口を言いだして、ムキになって本気の悪口が飛び交うようになって、それがヒートアップして殴り合いに発展した、ということだ。我ながら意味が解らない。でも、大事なのは、その次の彼女の言葉だった。

「ただ、『きれいな空の色ね』って、言いたかっただけなんだけどな…」

 私は、目を見開いた。一瞬この人が何て言ったのか理解しきれなかった。だってそれは、私の思ってたこととよく似ていたから。ひょっとして、意味の解らない殴り合いを始めたのだって、運命ってやつなんじゃないかって柄にもなく思ったりもした。きれいな桜の色をした髪を持つ少女は、その一言の後、私に初めて優しい笑顔を向けた。

 彼女と殴り合いを始めたのはその日からだった。どちらとも恐ろしいほど不器用な私たちは、話をしているうちにいつの間にか喧嘩に発展していた、なんてことが多かった。彼女とは殴ることでしか会話ができないような気がしたし、逆に蹴ることで言葉では表せない気持ちを伝えられるような気もした。不器用というよりはむしろ殺伐とした私たちのコミュニケーションは、それでも世界中にあふれてる本気の喧嘩よりよっぽど、平和的で温度のあるものだった。先生に咎められようが同級生に白い目を向けられようが、会えばとりあえず殴りかかるのがいつしか私たちの中で暗黙のルールとなっていた。そして今日も桜色を見つけては、いつか暴力なしで話しかけられたらなぁ、なんて考えながら、足音を忍ばせて彼女に近づくのだ。

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